The Road to DAZAIFU ~大宰府への道~

2008年11月28日

歴史の道・時の扉 かげろうの古代日向 その1(宮崎県新富町)

●はじめに
 ふとした時に“歴史”を感じると、なんだかトクした気分になる。
 いま自分がいるこの場所や、言葉を交わしている人たちがとても親密に感じられたり、口にする料理の風味が増したり。何らかの“手触り”を感じると、世界の奥行きがドーンと深まるような気がしてくる。
 太宰府への道新シリーズは、「歴史の道・時の扉」。九州国立博物館を基点とした九州各地のそんな“歴史”を感じる街や人を求めて旅し、ご紹介していきます。

1.古代と今が同居する 新田原古墳群

 なだらかな台地に、畑が広がっていた。夏の日差しを浴びた、葉タバコの緑がまぶしい。
 手入れの行き届いた気持ちのいい田園風景。だが、その中に草の生い茂った大小のマウンドが不規則に並んでいる。時折つんざくようなジェット機のエンジン音が鳴り響き、不思議な緊張感が漂っている。航空自衛隊の基地に同居する新田原(にゅうたばる)古墳群のファーストインプレッションだった。

田園と古墳が同居する新田原古墳群

田園と古墳が同居する新田原古墳群

●古墳“群”のある風景  古墳とは、古代の偉い人・権力者を埋葬する巨大な墳墓である。世界最大級の大山陵古墳(大阪府堺市)をはじめ、全国には無数の古墳があり、発掘調査を案内する立派な資料館を伴ったものも多い。
 古墳“群”はまさしく古墳が集中する地域であり、先に紹介した大山陵古墳は百舌(もず)鳥古墳群の中にある。百舌鳥古墳群の古墳は現在50基に満たないそうだが、以前は100基以上はあったという。近年古墳は文化財として保護されているが、かつては開発によって消えることも多かったようで、消えた約50基は時代の波に押し流されてしまった。

 せっせと働く生産者の横に、大小の古墳が今も残っている新田原古墳群。見学していると「邪魔だろうな。なければもっと効率的に作業できるだろうな」と感じるだけに、ずっとずっと守り続けてきた地元の人たちの複雑な思いが、伝わってくるようだ。

 新田原古墳群は、207基もの古墳が現存する。
 場所は宮崎のほぼ中央を貫流する一ツ瀬川が形成した、巨大な台地の東側にあたる。川をはさんで西側には西都原古墳群(西都市)がある。  新田原古墳群は、古墳の集中度により、塚原(つかばる)、石船(いしふね)古墳群、山之坊(やまのぼう)、祇園原(ぎおんばる)の4古墳群に区分けする場合もある。
 新田原古墳群は、列島全域に古墳築造が広まった5­~6世紀を中心に築造された古墳が主で、前方後円墳や円墳が集中。6世紀ごろでは日向地方最大の古墳群といい、この一帯に大きな力を持った首長が存在した証ともいえる。

円筒形埴輪が並べられた百足塚

円筒形埴輪が並べられた百足塚

●日向と中央のきずな
 国の特別指定史跡ながら、大きな看板や資料館があるわけでもなく、そこに当たり前のようにある古墳群。だからこそ旅人にとっては新鮮な風景なのだが、ただ祇園原古墳群の一画に史跡公園として整備されている場所があった。
 百足塚(むかでづか)古墳と名付けられたこの古墳は、長さ80mで後円部の高さ約9m、前方部の高さ約8・5mもある。祇園原古墳群では14番目という規模だが、崩落防止で張った芝生の緑がこんもりとして間近で見るとなかなかに壮観である。

 平成9年、この古墳の発掘調査で数々の埴輪がザクザクと掘り出されたのだから、大変である。
 家形埴輪、鼓のような形をした太鼓形埴輪、ひざまずく男性の埴輪、鳥型埴輪などの形象埴輪が、古墳の周りの溝で発見された。破損していたため、正式な数は分からないが60体以上はあったという。バリエーションや数も特筆すべきものだが、そもそもこの地方では埴輪の発掘例が少ない。これだけでも大発見だが、その埴輪の並べ方が非常に注目されたのだ。

 埴輪の配置は、祭祀の形式を伝える。その形式が大和王権の大王墓クラスのものと非常に似ているというのである。具体的には同時代で最大級の前方後円墳・今城塚古墳(継体天皇墓と推定)との共通性が高く、日向の首長と中央とのつながりの深さを物語っている。

 北部九州では、埴輪ではなく石を加工した石人や石馬を古墳に配置し、地域性の強い祭祀を行っている。独自路線で行く北部九州と中央との親和性を高める日向地区。古墳の違いは文化の違いだけではなく、両者の政治的な立場の違いを現わしている。
 古代九州ではどんなドラマがあったのだろう? また祇園原古墳群には新田原古墳群最大の前方後円墳弥吾郎塚(やごろうづか)古墳もある。

 新田原古墳群は、発掘調査があまり行われていない謎の古墳群である。しかし、地域の方々はどこか神聖なものとして1500年経た今も、守り続けている。全国各地に史跡は多いが、新田原古墳群のように境界があいまいなところは他に見当たらない。
 連綿と続く時間の流れではなく“今”と“古代”が併存するような独特の歴史風景は、それだけでもドラマチックではある。

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