2008年12月16日
2.未知の南九州~西都原古墳群・西都原考古博物館
●考古学発祥の地へ
新田原古墳群から車で30分。一ツ瀬川の対岸の台地上に西都原古墳群(宮崎県西都市)がある。総数311基前方後円墳31基、方墳1基、円墳279基が現存する、日本最大級の古墳群だ。日本最大級というのは数だけではない。東西2・6km、南北4・2kmという範囲に、3世紀半ば(前半の可能\性もあり)から7世紀までの長期間にわたって古墳が築造された。
幾世代にわたって営々と築かれつづけたことは、この一帯がいかに豊かだったかを物語る。古墳は、当時の先端土木技術を駆使した、シンボリックな建造物という側面もあり、列島でも有数の先進的な場所だった。古墳群を遠望すれば「すごい。ここは何かがある」と誰もが感じられるところだが、その割には古墳群には分からないことが多い。
日本最大級のナゾが眠っている場所でもあるのだ。
西都原市街地から車を走らせると、車窓から緑色の“こんもり”が見えるようになる。古墳の間をすりぬるように走る場所もあり、さすが“日本最大級の密度”を感じる。やがて「特別史跡公園西都原古墳群」という門扉を通り過ぎた。
西都原古墳群は、大正時代に初めて本格的な学術的な発掘調査が行われたところで、人呼んで「日本考古学発祥の地」。現在も国の特別史跡に指定されており、敷地内におびただしい数の古墳があるほか、桜の名所としても知られている。
この公園の中心施設が「西都原考古博物館」である。
西都原考古博物館の正面
西都原考古博物館では、西都原古墳群の解説展示をしているだけではない。南九州という大地の始まりから、縄文・弥生時代から古墳時代までを中心に現代までの何百万年という時代、さらに日向地方・朝鮮半島・日本各地との交流を示した“立体的な”ストーリーが、順路を回っていくうちに体感できるようになっている。
映像あり、立体造形あり、また貴重な実物の土器に触れることもできる。南九州一円独自の地下式横穴墓(ちかしきおうけつぼ)を再現した施設もあり、縦横無尽に展開された施設はちっとも飽きない。
地域を絞っているが、日本列島に住む人すべてに「自分たちのルーツ」を知るヒントが提示されるだろう。
●南九州古代のカタチ
この考古博物館で得られる情報は多く、濃密だ。歴史の教科書を読む限りでは、北部九州と畿内に有力な豪族がいた…、というような漠然とした列島古代の姿しか伝わってこない。大規模な水稲耕作が可能\になり、多くの人口を養えるようになると、平野部に人口が集中。さらに交易に便利な河川や海がそばにあると、さらに多くの人が集まってくる。こんな歴史のシナリオが定番化しているが、それは本当なのだろうか?
土器に映像資料を投影する
この風景は西都原古墳ならでは
古墳群の姿、考古博物館の展示などを見ていくと、教科書では教わらなかった列島古代の姿が見えてくる。
出土した土器の形。北部九州は朝鮮半島の東南部(新羅系?)の影響が強いのに対し、南は朝鮮半島西南部(百済系?)に似ているという。これまでの調査・探査から、地下式横穴墓は推定数千基確認されているが、最近発掘された朝鮮半島の古墳で良く似た形式のものが発掘された。繰り返しになるが、地下式横穴墓は主に南九州で発達した古墳である。
大陸とのつながりはほかにもある。円墳「鬼の窟(いわや)古墳」は、中国大陸や朝鮮半島でも当時の最新技術を駆使した「横穴式石室」が築かれた。また、古墳の周りに土塁を築くのも大陸や半島でよく見られる形式で、日本では同形式のものは4基しかない。中でも円墳は日本唯一。この墓に眠るのは、6世紀末から7世紀初頭の最後の首長墓ともいわれているが、大陸と直接的な交流があったことも示しているのではないか。
また古墳時代、北部九州では農作地面積の比率が「水田7:3畑」であるのに対し、南九州は「畑7:水田3」である。食文化の違いは明らか。同じ九州でも北部と南部は別の文化圏であったことを示す数字ではないだろうか。
さらに、南洋の島からもたらされるイモガイやゴホウラといった貝でつくられた装飾品も数多く出土している。当時は相当なお宝だったようで、北部九州や畿内の墳墓からも出土する。貴重な原料だったため、これら巻貝の形を模した石造品が多く埋葬されるようになるが、南洋諸島と列島を結ぶ交易ポイントが日向地域だったと考えられている。
南九州には、独自の対外交易ルートを持った「畑の文化」あるいは「山の文化」といった独自の文化圏があった。西都原古墳群は現在、8つの系統の異なる部族の共同墓地だという説が有力だ。それぞれが、自分たちの領地へ西都原文化の共通フォーマットを広げていたのだろうか。この“西都原文化圏”の影響力は、宮崎県から鹿児島県にまで及んでいた。
このようなストーリーに浸った後、最上階の展望室へ。そこには西都原古墳群を一望する風景が待っていた。巨大な墳丘からピッチングマウンドほどの小さな墳墓が、台地が尽きる一ツ瀬川まで点在し、その向こうは青空が広がっている。
多くの古墳には保護のために芝生が張られていて、それが草原を形成している。
この光景をスクリーンに、古代南九州の物語がフラッシュバックした。突き抜ける爽快感とともに余韻に浸ってみよう。
鬼の窟遺跡は祭壇のよう
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